日蓮宗では、お曼荼羅やお釈迦様、日蓮大聖人はもちろん、その他に色々な守護神がお祀りされています。
「ハーリティ(音訳は詞利帝)」とは、鬼子母神のインドでの呼び名で、日本では「鬼子母神」または「鬼子母尊神」と呼ばれています。
ハーリティは、もとは邪神で、一万人(一千人や五百人という説もあります)もの自分の子供を養うために、人間の子供をさらって、その肉を食べていました。困った人々から相談を受けたお釈迦様は、ハーリティが一番可愛がっていた末っ子の「ビンガラ(音訳は賓伽羅)」を隠してしまいました。世界中を探しまわったが見つからず悲しんだハーリティが、お釈迦様に救いを求めたところ、お釈迦様はこう諭されました。
「お前は一万人の子のなかの一人が居なくなっただけでそのように悲しんでいるが、お前に子を攫われた人々は三人か五人ほどしかいない子供を亡くしてしまったのだ。命の大切さと、子供が可愛いことには人間と鬼神の間にも変わりはない。」
これを聞いたハーリティは自分の罪の重さに気付き、今後人の子を攫う事は止め、お釈迦様の教えを守り、全ての子供たちと、仏教を信じる全ての人たちを守ることを誓いました。
『法華経』の二十六章にあたる「陀羅尼品」の中では、鬼子母神が十羅刹女と共に、法華経を信仰する人を守護する事を誓約しておられます。日蓮大聖人も鬼子母神を信仰され、大曼荼羅に鬼子母神を勧請されていますが、鬼子母神と十羅刹女の関係を、母と子であるとの確信を次第に深められました。
これらの事により、日蓮宗ではご祈祷をする際には、鬼子母神を法華経信者の守護神のひとつと位置づけ勧請するので、ほとんどの日蓮宗寺院では鬼子母神がお祀りされています。
鬼子母神信仰で有名なものをあげると、千葉県市川市中山の法華経寺で、日蓮宗の祈祷根本道場といわれ、荒行僧はここの鬼子母神に百日間お経をあげ続けます。
また、東京雑司ヶ谷の法明寺は、徳川家康が武運長久を祈願した鬼子母神があり、庶民の信仰も篤く、
洗濯に井戸をかえほす鬼子母神
という川柳が残っています。子供が多いのでお襁褓や衣服を洗濯すれば井戸水が干上がってしまうだろうと、鬼子母神を身近に感じられていた様子がしのばれます。
恐れいりやの鬼子母神
とは、狂歌の一部ですが、東京入谷の真源寺(法華宗本門流)の鬼子母神の霊験に驚いた蜀山人(江戸時代中ないし後期の狂歌師・戯作者、太田南畝)が詠んだといわれています。
また、これほど多くの人に信仰されている鬼子母神ですが、そのお姿には大きく分けて二つの型があります。
一つは「鬼形」とよばれ、眼光鋭く、口が大きく牙が見え、鬼のような形相をしたもので、これは、法華経の信者の邪魔をする者を戒める姿を顕しています。
もう一つは「天女像」で、羽衣をまとい、子供を抱いて、手には吉祥果(ザクロ)を持ってあり、抱いた子供は子育ての、ザクロは種が多いので安産の象徴と考えられます。皆様方の菩提寺にお祀りされている鬼子母神はどちらのお姿でしょうか。
法華経の守護神として鬼子母神とともに並び祀られ、また七福神としても広く親しまれている大黒天についてご紹介します。
大黒天は、恵比寿とならんで福徳や財宝を与える七福神として広く親しまれています。ふっくらとした体型で顔に微笑を浮かべ、頭巾をかぶって右手に打出の小槌を持ち、左肩に大きな宝の袋を背負って、米俵の上に乗っている姿がお馴染みです。
しかし、もともとはインドの死を司る恐怖の破壊神で、暗闇の中に住み、恐ろしい姿をしていました。大黒天は、サンスクリット語で摩訶迦羅(まかから・マハーカーラ)と言います。マハーは『大いなる』、カーラ『闇黒』です。ヒンズー教ではシヴァ神が世界を灰にする時、この姿になるとされています。この神に祈ると必ず戦いに勝利するのでインドでは大いに信仰されました。その後、仏教に取り入れられて三宝を守護する戦闘神となりました。また、苦行する仏教徒には穀物を与えるとされ、食料や厨房を司る神としての性格も持つようになりました。
日本では、平安時代に天台宗の開祖である伝教大師が比叡山延暦寺に祀ったのが始まりと言われています。この比叡山の大黒天の霊験の強さは有名で、各地に大黒信仰が波及します。さらに、出雲大社の御祭神として知られる「大国主命」が、「大黒」と同音であることで民俗信仰と習合していつしか七福神の一人に加えられ、江戸時代頃から現在のお姿になり、福の神として一般に広く知られるようになりました。
大黒天のお祀りの仕方は、通常、仏壇に入れず神棚に別に勧請します。年に6回ある甲子(きのえ・ね)の日が縁日です。この日に供物をささげ、法要を厳修しましょう。詳しくは、大荒行堂の第三行を成満された修法師の御上人にご相談なさってください。
食堂や台所にまつられることが多く、そこから転じて寺の婦人(僧侶の妻)を大黒さんと呼ぶこともあります。また建物の中心となる太い柱を大黒柱と呼びますが、これは大黒さまが天・地・人を守る事から屋台骨を支えるものをこのように呼びます。ちなみに大黒天が俵に乗っているのは「毎日ご飯を供えてお参りすれば、一生、食に不自由はさせない」というお告げがあった話が残されており、米俵と結びついたようです。
日蓮大聖人も「真間釈迦佛御供養逐状」の中で「いつぞや大黒を供養して候しい其後より世間なげかずしておはするか(大黒天を供養してからは安楽に過ごしていらっしゃいますか?)」
とおっしゃっています。また、「大黒天神供養相承事」では「大黒天神を信ずる者は、現世安穏・福祐自在、疑なし。毎月毎日信ずること成り難き者は、六斎の甲子(60日に一度ある大黒天の縁日)に、供物を調え、御祭祀あるべき者也。是れ秘中の秘なり」
と大黒天を供養することを勧めております。皆様もぜひ大黒天をご家庭に勧請してお祀りしましょう。
「最上位経王大善神」は、一般的に『お稲荷さん』と呼ばれることから、そのご神体はキツネであるとの誤解がありますが、姿を持たない久遠実成の御本佛の応現として衆生の済度のために菩薩の姿となって現れた、法華経の守護神です。
最上位とは、神々としての位階が最も上位であることを表します。また経王とは、数ある経典(お経の本)の中の王をいい、久遠実成の本師釋迦牟尼佛の秘密を唯一説き明かした妙法蓮華経(法華経)を指します。つまり、最上位経王大善神とは、われわれが受持する法華経のお経の力の不思議そのものの応現なのです。
その最上位経王大善神の姿は、通常美しい女身で、左の肩に稲束をになって、右の手に鎌を持ち、口に如意宝珠をくわえた白狐を連れています。稲束は、最上尊が五穀の神であることを象徴するものです。これは食糧をもって生活を守護することを意味しています。また鎌は、稲束と共に農作を表し、広く労働を守護する意味を持ち、更に悪を払い、退散させる意をも表しています。白狐のくわえている如意宝珠は、心願成就・開運招福を意味しています。最上位経王大善神の連れている(乗っている)白狐は、最上尊の清浄なることを表す色である白と、神出鬼没の神通力・神秘的な霊力を象徴するものです。
なお、稲荷=キツネの認識は、稲荷の眷属である狐の霊力を、人々が恐れるあまりできあがった誤解と思われます。
妙法蓮華経の智慧の応現たる神ですから、多くの日蓮宗寺院に勧請されています。特に、伏見、祐徳と並び日本三大稲荷(ほかにも諸説あり)に数えられる岡山県の最上稲荷が有名です。武神としての性格の他に、五穀豊穣、商売繁盛、開運など多くの福徳をそなえています。また、水の神である「八大龍王」、福禄寿の神である「大黒尊天」とともに各家庭に祀られるかたちも多く見られます。